千葉大学|高大連携企画室

 

   
       
                 

 



 
千葉理数教育高大連携ニュース NO34(2010.7.13)

【1】「物理チャレンジ応援団」について(高大連携企画室・室長 花輪 知幸)
【2】「理学教育高度化推進委員会」が開催されました
【3】「国際科学オリンピックシンポジウム」開催のお知らせ
【4】「第4回高校生理科研究発表会」について
【トピックス】水素脆化の常識を覆す大発見
【編集後記】



 

【1】「物理チャレンジ応援団」について(高大連携企画室・室長 花輪 知幸)

 今年は新しい試みとして物理チャレンジに挑戦する高校生向けの特別授業を 開講しました。ご存知の通り
物理チャレンジは国際物理オリンピックの日本予選会を兼ねています。その第1次予選である第1ステージ
は全国各地で開かれていますが、昨年より千葉県での会場を千葉大学が引き受けています。
 昨年は11名が千葉会場で受験し、1名が第2ステージに進出して優良賞に選ばれました。第1ステージの
受験者が千名弱であるのに対し、今年第2ステージに進めるのは75名という高い競争率です。千葉から、
より高いステージに進める候補者を育てたく、特別授業を組みました。
 物理チャレンジ応援団とは、この特別授業の名称とその講師団の両方を兼ねています。講師は千葉大学
に飛び入学した現2年生と3年生が務めました。このうち1人は高校在学中に物理チャレンジ第2ステージ
に進出した経験があります。しかし教える経験は初めてです。船橋高校で高校生が小中学生向けのSS科
学講座を開いていることにヒントを得て、大学生にとっても教えることは学ぶことと思い物理学コースの学生
に声を掛けました。引き受けてくれた3人は興味をもち、実力診断のための予備テストを実施したり、少人数
クラスを編成したり、講義内容についてもよく考えてくれました。
 6月24日の第1チャレンジ当日には、昨年より1名多い12名が参加しました。多くは物理チャレンジ応援団
にも参加してくれた中高校生です。申込みは17名だったのですが当日の欠席が5名でたことは残念でした。
2年生以下の若い挑戦者も5名ほどいますので、良い成績がでれば国際物理オリンピックへの出場の可能
性も残されています。現在はその結果を期待しながら待っている段階です。
 最後になりましたが、物理応援団への参加を高校生に呼びかけていただいた千葉高校、千葉東高校、
市川高校の先生方に感謝申し上げます。

 
 

【2】理学教育高度化推進委員会が開催されました

 6月30日(水)千葉大学において「理学教育高度化推進委員会」が開かれました。この委員会は
本学の先進科学センターが主催し、県内の理数科設置校とSSH実施校などを中心とした高校教員
と大学教員とで構成され、理学教育の高度化と科学技術分野の革新的教育改革をめざして平成19年度から開催されているものです。
 今回は、新学習指導要領において理数科で必修となる「課題研究」の指導法を中心に討議が進みました。その話題のひとつは、課題研究のテーマをある程度教師が用意すべきか、それともあくまで
生徒自身に決めさせるかという問いかけでした。
 もちろん後者が本来の姿であり、モチベーションも当然増すわけですが、初めての生徒に、限られた時間内で有効に課題研究を進めさせるためには特定のテーマを勧めたり選択させたりすることも必要という意見ももっともです。
 要は生徒が興味を持って熱心に取り組めればよいわけですが、県総合教育センター大山先生からの「小中学生の研究テーマは大変ユニークで興味深いのに、高校になると、とたんに型にはまったものになりがち」という指摘は、私たちが常に心しておかねばならないことと感じました。



 
 

【3】「国際科学オリンピックシンポジウム」開催のお知らせ

国際科学オリンピック事務局より、以下のような催しもののご案内です。
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 国際科学オリンピックシンポジウムを8月18日(水)東京大学 安田講堂で開催します。当日はノ
ーベル化学賞受賞者の野依良治先生の基調講演をはじめ、歴代のメダリストたちが、科学のコト、
国際大会のコト、などを皆様の質問にお答えするパネルディスカッション や歴代メダリストたちと一緒
に実験を行うワークショップや国際物理オリンピックの問題を交えながら、最先端の科学とその奥深さを観ることができるサイエンスショーを実施します。

   <開催概要>
【日時】 2010年8月18日(水) 開場13:00 開演13:30
【会場】 東京大学 安田講堂(文京区本郷7-3-1)
【入場】 無料
【定員】 第1部+サイエンスショー ※事前申込制(先着800名)
第1部+ワークショップ ※抽選(7月31日(土)締切)
【主催】 日本科学オリンピック推進委員会
【後援(予定)】文部科学省、文京区
【特別協賛】 独立行政法人科学技術振興機構

   <プログラム>
【第1部】
13:30 基調講演「憧れと感動、そして志」(仮)
野依良治先生
(化学オリンピック日本委員会委員長、ノーベル化学賞受賞者)

14:35 パネルディスカッション
世界の才能が伝える、国際科学オリンピック 
メダリストに聞きたいこと、メダリストが伝えたいこと

【第2部】
15:30 サイエンスショー「宇宙観る(そらみる)」
※事前申込制(先着800名)
国際物理オリンピックと東京大学サイエンスコミュニケーションサークル
「CAST」がお届けするサイエンスショー「宇宙観る 国際物理オリンピック篇」です。

15:30 ワークショップ  ※抽選(7月31日締切)
1)中・高校生向けコース
歴代の国際科学オリンピックメダリストたちと一緒に行える5科目別のワークショップを実施します。
2)大人向けコース
『子どもたちのために大人ができること』をテーマに科学好きな子供の才能を伸ばすヒントが見つかり
ます。3つのワークショップを実施します。

<お申し込み>
本シンポジウムの参加申し込みは事前申込み制になっておりますので下記サイトよりお申し込みください。

      http://www.kagaku-olympic.jp

■参加に関する問い合わせ
国際科学オリンピックシンポジウム事務局
TEL:03−5468−3030(平日 10:00〜18:00)
Mail:kagaku-olympic@mpc-inc.co.jp


 
 

【4】「第4回高校生理科研究発表会」について

 今年の「理科研究発表会」に向けて、研究の進み具合はいかがでしょうか。私たち高大連携企画室のスタッ
フも着々と準備を進めております。ご多忙の中、先生方にはほんとうにご苦労様ですが、長いようで短い夏休みです。計画的なご指導どうぞよろしくお願いいたします。

応募期間  平成22年8月24日(火)〜9月2日(木)

発表日時  平成22年9月25日(土)9時〜17時 (予定)

会  場  千葉大学 けやき会館 (西千葉キャンパス)

当日の日程(予定)

8:30〜 9:00 受付(発表会場で)、発表準備
9:00〜11:00 グループAポスター発表
11:00〜11:50 昼食・休憩
11:50〜13:50 グループBポスター発表
14:00〜16:50 講演、表彰式、講評等

(注)発表グループの配慮について
 遠方の高校の場合は、会場への到着時間等を考えグループBとするような配慮が可能です。高大連携企
画室(事務局)へ事前にご連絡下さい。

17:00〜19:00 指導者等交流会
 審査委員の先生方や指導に当たられた先生方など、本研究発表会関係者がひざを交えて語り合う会を設
定いたしました。発表までの苦労話、今後の指導方針など様々な話題について、忌憚のない意見交換したい
と考えています。希望参加ですが、大勢の方々のご参加をお待ちしております(会費制です)。

 応募方法等につきましては高大連携企画室のホームページをご覧下さい。
 http://koudai.cfs.chiba-u.ac.jp/oubo4.htm

 
 

【トピックス】水素脆化(ぜいか)の常識を覆す大発見

 水素脆化とは、鋼に水素が吸収されたとき、その強度が低下する現象のことです。昔から溶接や
酸処理、電気メッキを行った鋼材が数年後にもろくなることで知られていました。この場合、酸処理
や電気メッキを行った後、加熱処理して水素を追い出せば、脆化をかなり防ぐことができます(ベーキ
ング処理)。
 鋼を酸処理したり電気メッキを施すと必ず水素が発生します。この発生期の水素に含まれる水素原
子が鋼中に拡散し水素脆化を起こすのです。そのメカニズムはまだはっきりわかっていませんが、鋼中に拡散した原子が水素分子になるとき、1万気圧もの非常な高圧を生じ、鋼の結晶構造を破壊するためと推測されています。
   *手前みそになりますが【2】の理学教育高度化推進委員会で報告した安房高校化学部の
    燃料電池研究における「破壊されたパラジウムの多層構造」が、典型的な水素脆化の状態
    です。
  さて7月2日の新聞によると、九州大学と産業技術総合研究所の研究グループは、極端に多量の水素をステンレス鋼に侵入させたところ、驚くべきことに金属疲労強度の著しい向上を示すことを発見しました。これまでの常識は、材料中に侵入する水素の量が多いほど強度は劣化するというものであり、過去30年間、水素を侵入させて強度が上がるという報告例は皆無ということから、米学術誌の審査委員との間で1年間にわたって激しい議論の末ようやく掲載が認められたとのことです。
 この発見は、将来の水素ステーションの建設や水素燃料電池車の開発など、水素社会実現に大き
く貢献することが期待されます。
 さて私が興味を持ったのは発見の重要性はもちろんですが、なぜ今まで誰もやらなかった「過剰水素侵入」をやろうと思ったのか、ということです。新聞には「水素の影響を極端な状態で調べるため」と控え目ですが、それだけではなく「もしかしたら何か起こるかもしれない」という大きな期待があったよ
うに思えてなりません。
 いずれにしても柔軟で大胆な逆転の発想が大発見をもたらすという教訓に、新たな1ページを加え
たすばらしい出来事でした。  

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【編集後記】

 【2】の理学教育高度化推進委員会の話題提供でのこと。期せずして我孫子高校の小泉先生と私
から「アブダクション」の言葉が飛び出しました。これは「仮説形成」という意味で、アメリカの数学者
で論理学者のチャールズ・パース(1839〜1914)が提唱した概念です。
 彼は科学的発見において重要なのは、それまで信じられてきたような、一般則から個別事例を導く
「演繹」や個別事例から一般則を推測する「帰納」ではなく、個別事例から飛躍を伴って引っ張り出さ
れるアイデアやひらめき、すなわち「アブダクション」であると主張しました。そしてアブダクションこそ
人間の創造的な想像力が最も要求されるすばらしい営みであると述べています。
 パースは100年早く生まれすぎたと言われる大天才で、最近、情報理論や科学哲学の分野で注目
を集めており、このアブダクションの考え方も広く認められつつあります。
 生徒に課題研究をさせるなら、たとえ小さな場面であっても、アブダクションの醍醐味を是非味わわせたいものです。

野曽原友行

千葉大学高大連携企画室
tel:043-290-3526
fax:043-290-3962
E-mail:t-nosohara@faculty.chiba-u.jp



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