千葉大学|高大連携企画室

 

   
       
                 

 



 
千葉理数教育高大連携ニュース NO82(2014.7.1)

【特別寄稿】「Intel ISEF 2014」視察に参加して

       千葉県立幕張総合高等学校教諭 中山 秀幸
       千葉県立佐原高等学校教諭   浅野 裕史


 

 今年も千葉大学先進科学センターからの依頼で、お二人の高校の先生に「Intel ISEF」 を視察していただきました。そこで今回の「高大連携ニュース」は「特別寄稿」として、その視察レポートを掲載いたします。
  中山先生、浅野先生ともそれぞれの理科教育の視点から、たいへん示唆に富んだご意見・ご感想を述べられ、有益な資料となっています。
 なお、お二人には9/27(土)の「第8回高校生理科研究発表会」においても、東京大学の細谷先生とともに講演していただきます。こちらもどうぞご期待ください。

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【特別寄稿】「Intel ISEF 2014」視察に参加して
      
1.千葉県立幕張総合高等学校教諭 中山 秀幸

 2014年5月11日(日)〜5月18日(日)の日程で、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで開催されたISEF(インテル国際学生科学フェア2014)の視察に参加させて頂きました。このISEFには、JSEC(高校生科学技術チャレンジ)とJSSA(日本学生科学賞)で上位入賞した生徒が出場することができます。
 私はJSECからの生徒達と共に行動しました。到着したロサンゼルスは、カリフォルニア州の南西部に位置しており、ハイウェイが縦横にめぐらされたダウンタウンは、西海岸随一の経済中心地です。宿泊したホテルから審査会場まで専用バスが定期的に運行しており、大変便利でした。幕張メッセ以上の大規模な施設であるコンベンションセンターの審査会場は、中心にハブといった総合案内場があり、天井から案内板がつり下げられポスター展示ブースは、広く整備されていました。日本の高校生達は、自分のブースを確認してポスター掲示の準備をし、その夜はピンバッチ交換を行いました。
 次の日からは、ノーベル賞受賞者によるパネルディスカッション・ダンスパーティ・審査・一般公開など充実した多彩な行事が行われました。ノーベル賞受賞者によるパネルディスカッションでは、日本の生徒として初めて本松 千波さんが「過去と現在の研究者の違い」について質問をしました。「我々のころは余裕があったが現在は研究成果の報告など時間的制限があり余裕がない。もう少しじっくり研究できたらよいのだが」と答えて頂き、ここにいる皆の参考になる質問である、と良い評価を頂きました。
 この視察の最初に、千葉大学の上野先生から「日本と外国の違いをみてほしい」とお言葉を頂き、世界の様子を観ることのできた1週間は、大変有意義でした。この視察を通じて、私は次の3点【幅広い研究】【積極性】【審査】について興味感心を持つことができました。最後に【日本の高校生の奮闘】を報告します。それぞれについて、感想を交えて紹介させて頂きます。

【幅広い研究】
 研究は複合カテゴリーということで、動物科学・行動・社会科学・生化学・コンピュータ科学・細胞・分子生物学など17にわかれていて、特に社会に有用な研究が多いようでした。これらの研究を見て改めて感じたことは、我々が普段使用している「製品」や「食材」等について興味・関心・疑問を持たせるような指導を普段から意識して行うと共に、科学をどの様に「生活」に活かしていくか考えさせる授業展開をしていかなければと思いました。また、日本は、物化生地の科目に分かれ教育が行われていますが、我々、教員が理科だけではなく関連性のある教科が連携をとって、小・中・高と学年が上がるごとに、「視点を変えた物の見方を育てる教育」を学校や研究発表の場で行わなければと思いました。

【積極性】
 一般公開の時、多様な国の発表を見ることができました。南サモアの生徒は地域に伝わる伝統的な植物を調べ、蚊の幼虫を殺すのに役に立つ研究をしているので皆に広げたいと言っていました。これは1例ですが多くの生徒達は、自分たちの研究について積極的に伝えようとしてくれ、英語が通じない場合はスマートフォンの通訳機能を使ってまでも伝えようとしてくれたたことが印象に残っています。
 このような積極的コミュニケーションは、日本が学ぶべきことと思い、視察から帰って次の日、授業で世界の生徒達の様子を伝えたところ、目をいきいきさせて聞いていました。もちろん語学力を活かして、説明や質問に答えられる能力も大切なので、様々な場面で生徒達に伝えて行こうと思っています。

【審査】
 審査の様子を見ることはできませんでしたが、通訳の方や生徒に話を聞いたところ審査員が各ブースに訪問して英語で質疑応答をする。1人当たり15分程度質問で、内容は、研究の動機・研究方法・研究結果・研究の利用についてといった4つのことを聞かれ、審査員はアメリカ軍や大学の方など幅広い層のボランティアの方がいたそうです。後から関係者の方に聞いたところ、独創性があり実用的な研究の評価が高いそうです。

【日本の高校生の奮闘】
 フェアには約70ヶ国・約1390研究1780人以上の生徒が参加しました。今年の日本の生徒は昨年に比べ、8研究10人と人数が増えました。しかしながらJSECから生徒達は奮闘し、優秀賞としてエネルギー・運輸部門で山中美慧さん(宮城県仙台第二高等学校3年)、動物科学部門で林晴人君(富山県
立高岡高等学校3年)さんが2等を受賞しました。
 また、協賛企業や大学などが選ぶ特別賞としてアメリカ地球科学協会賞・1等賞を本松 千波さん(千葉県立薬園台高校出身)、欧州原子核研究機構賞、またアメリカ化学会賞・佳作として山中 慧さん(宮城県仙台第二高等学校3年)、ブルーノ・ケスラー財団賞を矢倉 大夢君(灘高等学校3年)が受賞しました。
 表彰式は、最高の盛り上がりを感じました。一般公開や授賞式では保護者の参加が見られました。参加した生徒は、それぞれ関係機関や保護者の支援があったと思います。生徒達は、昨年からの準備を含めて今回のISEFまで、良い経験になったと思いました。奨学金や賞金が支援されることも魅力ですが、能力を伸ばして上げる教育環境作りや小さい頃からの支援が大切であると感じました。
 今回派遣して頂いた千葉大学はじめお世話になりました朝日新聞、JTBの皆さまには大変感謝をしております。この場を借りて御礼申し上げます。また、今回の派遣を認めてくださいました本校校長 大久保利宏先生および学校の教職員の皆様には派遣中を含め、その前後に協力をいただき深く感謝申し上げます。



2.千葉県立佐原高等学校教諭 浅野 裕史

 私はインテル国際学生科学技術フェア(Intel ISEF 2014)に参加して、会場の広さや参加者数など、そのスケールの大きさに驚きました。そして自分が普段行ってきたことと、高校生科学研究の頂点とのギャップの大きさにも驚きました。私の勤務校は課題研究実施2年目。予算も少なく、課題研究の進め方を模索中です。そのような状況のため、いきなり世界最高峰のISEFのスタイルを、本校にそのまま持ち込もうとするのは難しいことです。しかし研究発表での質疑応答にISEF流を取り入れ、研究の質を高めることなら可能ではないかと思います。そして、他校の皆様にも参考にしてもらえる部分もあるのではないかと考えました。このような思いから、私が今回体験してきたことを伝えることができればと思います。

 とはいうものの、ISEFの審査会当日はファイナリストの生徒しかポスター発表の会場に入ることはできません。そのため審査の様子については、唯一会場に入れる通訳の方から後で聞いたものです。審査はポスターの前で、審査員(その分野の専門家)10名ほどに対して1人ずつ英語でプレゼンテーションを行い、審査員からの様々な質問に答えます。まずは「審査員から必ず聞かれる質問」を4つ紹介します。

@何がきっかけでその研究を始めたのか。
Aその研究が実生活にどのように役立てられるのか。
B以前からあった論理(考え方)を使った研究なのか、自分のアイデアを元にした研究なのか。
C研究をこれからも続けるのか、続けるとしたらどこを改善するのか。

 私はこれまでの教員生活で、中学校の理科、高校の地学の授業を行ってきました。生徒に発問するときは、授業の流れに沿って、生徒が答えられそうな内容の質問をします。質問について生徒が考えることで、学習内容への理解が深まるように配慮してきました。課題研究発表の場においても、同様な配慮をした質問ばかりしてきたように思います。しかし、ISEFの場は違いました。特にAの質問など、審査員は実にストレートに聞きたいことだけを質問してきました。中には意地悪だなと思えるようなものもありました。しかし、このような厳しい質問に受け答えすることで、生徒の思考は深まり、成長するのだと思います。海外ではこれが普通なのかもしれないと思うと、普段私がやっていることとの差は大きいです。生徒が成長するための厳しい質問も、今後は行っていきたいと考えています。

  Aの質問のように、ISEFでは「実生活にどのように役立てられるのか」を、研究に強く求めていました。私は普段の授業では、生徒の科学への興味・関心を高めること、科学的な見方・考え方を身につけさせることをまず考えてきました。防災や環境、エネルギー分野などを除けば、その時間の学習内容が実生活にどう役立つのかを前面に出した指導はしていません。課題研究に関しても、すぐに役に立つ研究をすることを生徒に求めていません。ところがISEFの審査員は、基礎的な科学分野であろうと「それが実生活でどう役立つのか」という
質問を、具体的な事例をあげて聞いてきました。私はすぐに役立つ研究でなければ価値がないとは思いません。しかし自分の研究についての深い理解がなければ、その研究成果がどう社会に貢献できるかまでは考えが及ばないとは思います。生徒の理解を高めるために、この質問が有効なのかもしれないと思いました。

  グループ研究の場合には、審査員が質問への回答生徒を指定してくることがありました。グループのリーダーあるいは話が得意な生徒だけが説明できるのではなく、グループ全員が研究内容をきちんと理解し、説明できることが求められます。もう1つ、審査員からの質問が一通り終わった後、逆に審査員が「(専門家である)私に何か質問がありますか」と尋ねてくるケースもありました。ここでも研究への理解度が試されているのかもしれません。

 今回のISEF派遣の話をいただいたのは前年度末の3月22日で、海外渡航が初めてである私にとってそれからの準備は大変でした。しかし、ロサンゼルスでの8日間は何物にも代え難い経験となりました。正直に言えば、科学分野の国際競争の激しさや、日本の現実の厳しさがこれほどのものとは思っていませんでした。ISEFを体験する機会を私に与えてくださった千葉大学の皆様には、大変感謝しています。朝日新聞社、JTB、そして佐原高校職員の皆様には、様々な面で大変お世話になりました。厚く御礼申し上げます。


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野曽原友行
千葉大学高大連携専門部会
tel:043-290-3526
fax:043-290-3962
E−mail:t-nosohara@faculty.chiba-u.jp

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