【トピックス】有機化合物の電子の流れやすさを世界で初めて測定
(千葉大院融合科学研究科 石井久夫教授にインタビュー)
先月、新聞各紙で話題になった、千葉大院の上野信雄・石井久夫両教授による有機半導体に関する研
究成果について、石井教授にインタビューしました。
Q:まず今回の研究の意味について、その背景から説明してください。
石井:エレクトロニクス分野では、ケイ素を中心とした無機半導体に代わって近年、有機半導体が脚光を
浴びています。有機半導体は低温で作れるので環境負荷が少なく、省エネルギー性に優れ、形も自
由自在というわけで利点が大きい。とくに有機ELディスプレイは2016年には市場規模が7000億円と
予想されるなど急成長の新産業です。ところが、このように実用化は先行しているものの、ある種の
有機物がなぜ電気を通すのか、どんな構造が電気を通しやすいのか、など詳しいことはまだわかっ
ていないのが現状です。
Q:そこで上野・石井チームの登場ですね。有機化合物中の電子の動きやすさ(有効質量)の測定に成
功したそうですね。
石井:そうです。ある有機化合物がなぜ電気を通すのかなど、謎を解明するには化合物内の電子の挙動
を測定できなければなりません。私たちは、ベンゼン環8個からなるルブレンという有機化合物に紫外
線を当て、飛び出てくる電子の速度と方向から、化合物内の電子の重さ(有効質量)を測定することに
成功しました。世界で初めての測定です。
Q:それまではどうして測定できなかったのですか。
石井:電子が飛び出せば、化合物は当然プラスに帯電します。そうすると電子はもう飛び出せなくなる。
私たちはレーザーを使うことにより、この帯電を除去する方法を発見したのです。
Q:すごいですね。測定結果からどんなことがわかったのですか?
石井:ルブレン中の電子の方が真空中の電子よりも軽いという意外な結果でした。分子が電子の動きを
妨げず、逆に助けているという事実が明らかになったのです。すなわち無機物と同じく、バンド伝導と
いう現象が有機物でも起こっていることがわかりました。
Q:画期的な発見ですね。この発見は今後どのように生かされますか?
石井:様々な有機化合物について測定することによって、有機半導体中を電気が流れるメカニズムが解
明されるでしょう。そうすれば逆に電気をよりたくさん流せる分子構造の設計開発が可能になります。
有機エレクトロニクスがいっそう進歩するためには、何よりも伝導度の高い分子を創り出すことが先決
なのですから。
Q:たいへん夢のあるお話をありがとうございました。こういう分野に高校生たちがもっともっと興味を持て
るよう私たちも努力したいと思います。
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