千葉大学|高大連携企画室

 

   
       
                 

 



 
千葉理数教育高大連携ニュース NO.56(2012.5.17)

【特別寄稿】 「科学の甲子園」の問題を考える
【1】 「課題研究徹底討論講座」を実施して(千葉SSネットトップセミナー)
【2】 JST数学キャラバン(第5回)「拡がりゆく数学 in 千葉〜数学はどんな形で社会で役立つか〜」のお知らせ
【3】 千葉大学関連の「サイエンスイベント」が決まりました
【4】 「高校教師のための 課題研究指導サポートブック」をご希望の方に差し上げます
【編集後記】

 

【特別寄稿】「科学の甲子園」の問題を考える

                      千葉大学      井宮 淳
                      東京慈恵会医科大学 植田 毅

? 本年3月に、千葉県教育委員会からの依頼で、第1回科学の甲子園千葉代表の事前トレーニングを手伝った。科学の甲子園の目的が、数理科学コンクールの目的と似ていたため、事前トレーニングの課題として過去に数理科学コンクールで出題した課題に取り組んでもらい、解答の記述法について集中的に解説した。また、
大会までに確認しておくべき課題について予想を行った。このトレーニングがある程度、大会での取り組み方の予想になっていたので紹介する。ただし、次回以降にこの予想が当たるとは限らないことを断わっておく。
  まず、各県代表48チームが二日という短期間で数学から理科に渡る広い問題に取り組むので、採点する側からみれば的確に解答が書かれていることが第一の判定基準であることになる。そこで、最終結果から、記述課題の部をみると上位は老舗進学校、なかでも国立大学の付属校が並んでいた。確かに、これらの学校へはしっかりとした作文(国語の作文ではなく、科学論文としての作文)をできないと進学できないようである。
  課題全般を見ると、他分野、化学、生物関係の内容を物理、数学的に取扱い、理解できる必要がある課題であった。漠然としたことに現象についてまごつかずに、論理的、数理科学的手法を適用できるかの訓練が必要である。したがって、基礎理論だけでなく応用科学、応用数学的内容、物理化学とかの二つ以上の分野にまたがることを経験しておく必要があるように思う。また、工作系(実技)の課題で行き当たりばったりにならず、設計という概念を持たせるには工学的素養も必要である。生物、化学の問題は、会場の関係から、廃液が出せないことや、特殊装置が使えないことを考えれば、いわゆるドライサイエンスに関する課題を予想した。大会での生物の課題はまさしくそのようなものであった。
  科学の大会と言えば、ことさら難しい数式や理論を使いまくることと考える向きがある。確かにISEFに出展される作品にはそのようなものが多数ある。いや、それしかない。しかし、科学することの基本は、自分の考えを的確に、しかも論理的矛盾なくまとめて、第三者に伝えることである。また、授業や実験で利用する機器の原理、その正しい使用法を身に付けて最先端の科学に進むべきである。
  さらに、常日頃から、理科の大学入試問題を離れて身の回りの現象を観察し、疑問があれば調査し考えてみる科学的なものの見方を身につけることも必要である。我が国では、この分野で高校生でも読みこなせるものとして、寺田虎彦、戸田盛和、伏見康治、ロゲルギストらの著作がある。幸い、一時期版切れであったが最近、復刻されたり、文庫化されている。これらの著作を読むと論旨の進め方の勉強にもなる。
  今後の大会出場に向けた解答のまとめ方に注意を払う必要がある。大学入試レベルの理科の試験では、答えのみ問う問題が多い。あるいは、長い文章の中に解答欄を設けて答えを入れる問題もある。穴埋めの良問を各自の手で書き直してみるのも一策かもしれない。論理展開や文章運びになれることになる。最後に、参考図書をあげておく。今後の参考になれば幸いである。

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ロゲルギスト 物理の散歩道 新装版 1−5集 岩波書店 (2009-2010)
新物理の散歩道1−5ちくま学芸文庫 Math&Scienceシリーズ(2009-2010)
戸田盛和 おもちゃの科学セレクション 1−3巻 日本評論社
ヤモリの指―生きもののスゴい能力から生まれたテクノロジー
ピーター フォーブズ (著)吉田 三知世 (翻訳)出版社: 早川書房 (2007/03)
生き物たちは3/4が好き 多様な生物界を支配する単純な法則
John Whitfield (著), 野中 香方子 (翻訳)出版社: 化学同人 (2009/1/29)
ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)
ノーバート・ウィーナー (著), 池原 止戈夫 (翻訳), 彌永 昌吉 (翻訳), 室賀
三郎 (翻訳), 戸田 巌 (翻訳)出版社: 岩波書店 (2011/6/17)
ガイドツアー 複雑系の世界: サンタフェ研究所講義ノートから
メラニー ミッチェル (著), 高橋 洋 (翻訳)出版社: 紀伊國屋書店 (2011/11/25)
ザリガニはなぜハサミをふるうのか―生きものの共通原理を探る (中公新書)
山口 恒夫(著)出版社: 中央公論新社 (2000/07)
リズム現象の世界 (非線形・非平衡現象の数理)蔵本 由紀 (著, 編集)出版社: 東京大学出版会 (2005/10/24)
応用数学夜話 (ちくま学芸文庫)森口 繁一 (著)出版社: 筑摩書房 (2011/10/6)
高橋秀俊の物理学講義――物理学汎論 (ちくま学芸文庫)
高橋 秀俊 (著), 藤村 靖 (著)出版社: 筑摩書房 (2011/10/8)
カオスとフラクタル (ちくま学芸文庫) [文庫] 山口 昌哉 (著)出版社: 筑摩書房 (2010/12/10)
オイラーの贈物―人類の至宝eiπ=-1を学ぶ (ちくま学芸文庫) [文庫]
吉田 武 (著)出版社: 筑摩書房 (2001/11)
物理講義 (講談社学術文庫 195) [文庫] 湯川 秀樹 (著)出版社: 講談社 (1977/10/7)
理科系の作文技術 (中公新書 (624))木下 是雄 (著)出版社: 中央公論新社 (1981/01)
知的な科学・技術文章の書き方―実験リポート作成から学術論文構築まで
中島 利勝(著), 塚本 真也(著)出版社: コロナ社 (1996/09)
評価Aが取れる基礎物理実験レポート (KS物理専門書) 入江 捷廣 (著)出版社: 講談社 (2010/9/16)
周期表に強くなる! 配置や属性から見えてくる 元素の構造と特性
(サイエンス・アイ新書) [新書]齋藤 勝裕 (著) 出版社: ソフトバンククリエイティブ (2012/2/18)
理科力をきたえるQ&A きちんと答えられる大人になるための基礎知識
(サイエンス・アイ新書) [新書] 佐藤 勝昭 (著)出版社: ソフトバンククリエイティブ (2009/12/17)
「アルゴリズム」のキホン (イチバンやさしい理工系シリーズ) [単行本]杉浦 賢 (著)
出版社: ソフトバンククリエイティブ (2011/3/18)
物理数学の直観的方法 〈普及版〉 (ブルーバックス) [新書]長沼 伸一郎(著)
出版社: 講談社; 普及版 (2011/9/21)
熱力学で理解する化学反応のしくみ (ブルーバックス) [新書]平山 令明(著)出版社: 講談社 (2008/1/22)
制御工学の考え方 (ブルーバックス) [新書] 木村 英紀(著)出版社: 講談社 (2002/12/16)
金属材料の最前線 (ブルーバックス) [新書]東北大学金属材料研究所 (編集)
出版社: 講談社 (2009/7/22)
新・材料化学の最前線 (ブルーバックス) [新書]首都大学東京 都市環境学部 分子応用化学研究会 (編集)
出版社: 講談社 (2010/7/21)
新電子工作入門 (ブルーバックス) [新書]西田 和明(著)出版社: 講談社 (2000/2/18)

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【1】「課題研究徹底討論講座」を実施して(千葉SSネットトップセミナー)

  千葉SSネット(コアSSH)として初めて行う少数参加の徹底討論講座が、4/28(土)県立船橋高校にて開催されました。以下、千葉SSネット事務局吉田 昭彦先生(県立船橋高校)からの報告です。

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「研究発表テーマ」

(1)磁場中における磁性流体の振る舞い(県船3年生1名)
(2)マウスには集団での試行錯誤による学習能力はあるのか(千葉東3年生1名)
(3)木材の可塑化〜多価アルコール充填による可塑性維持(県船3年生1名)
(4)クマムシの研究(市川2年生1名)
(5)自作旋光計による旋光度の測定(千葉東2年生2名)
*各発表とも発表10分・質疑応答20〜30分程度
*ほか見学生徒10数名・教員8名

講師 町田武生先生(埼玉大学名誉教授)
    野曽原友行先生(千葉大学高大連携企画室)

  今回は時間をかけた討論により、意欲的に取り組む生徒に、研究を一層発展させる機会を提供することをねらいとしました。急な募集でしたが、当日は活発でレベルの高い質疑応答が行われ、参加者一同大いに手応えを得ました。個人的にも「発表会の楽しさ」とは何か、改めて実感しました。大規模な発表会とは別に、このような会をなるべく多数開催することが課題研究の推進に大変重要であると考えられるので、時期や形式などを検討して今後も実施するつもりです。皆様のご意見を頂ければ幸いです。

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【2】JST数学キャラバン(第5回)「拡がりゆく数学 in 千葉 〜数学はどんな形で社会で役立つか〜」
   のお知らせ

  数学は純粋な理論的学問であるというイメージを持たれている方も多いと思われますが、実際には、さまざまな分野で広く使われています。そのことを実感してもらうため、実際に他分野とつながるような数学の研究を行っている最先端の数学者を集めて、高校レベルの数学で数学の広がりを話してもらうJST数学キャラバン(第5回)「拡がりゆく数学 in 千葉」を千葉大学で開催いたします。
 多くの方の参加をお待ちしています。

日 時 : 2012年 6月17日(日)13:00〜17:00
対 象 : 高校生および一般 (内容は高校生向け)
場 所 : 千葉大学 総合校舎B号棟講義室
アクセス: JR総武線「西千葉」駅、または京成千葉線「みどり台」駅から徒歩10分
参加費 : 無 料
定 員 : 250名程度
申込受付:以下のWEBページからお願いします(申込締切 6月13日)
WEBページ:http://www.math.jst.go.jp/event/20120617_caravan.html
問合せ : caravan@math.jst.go.jp
主 催 : 独立行政法人 科学技術振興機構(JST)
    「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」研究領域
共 催 : 千葉大学理学部  
後 援 : 千葉市科学館  

プログラム ※前回のアナウンスから多少時間が変更になりました。
12:30  受付開始
13:00  開会、挨拶
13:10〜13:50「サイン・コサインとレーザー走査型プロジェクター」
    池田 勉 (龍谷大学副学長・JST領域アドバイザー)
14:00〜14:40「シャボン玉とシャボン膜の数学」
   小磯 深幸 (九州大学教授・JSTさきがけ研究者二期生)
15:00〜15:40「情報通信を支える1つの数学〜符号理論、始めの1歩」
   原田 昌晃 (山形大学准教授・JSTさきがけ研究者二期生)
15:50〜16:30「数学で読み解く生物リズムとカオス」
   郡 宏 (お茶の水女子大学准教授・JSTさきがけ研究者二期生)
16:35〜17:00 講演者との懇談会
17:00  閉会

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【3】千葉大学関連の「サイエンスイベント」が決まりました

  千葉大学の先生方が開催する高校生対象の、今年の「サイエンスイベント」がほぼ決まりました。まだ募集要項のURLが完成していない講座も多いですが、決まり次第掲載していきます。以下をご覧ください。

http://koudai.cfs.chiba-u.ac.jp/sience_event06.htm

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【4】「高校教師のための 課題研究指導サポートブック」をご希望の方に差し上げます

  毎回紹介しておりますが、千葉大学先進科学センターを発行元とする、課題研究の教師用サポートブックです。1000部発行し、1ケ月あまりで約600部を発送済みです。
 全国からは、『内容の充実ぶりに一同感激しております』
         『それぞれの現場での実践例が豊富であり、流れがイメージしやすく
         とても勉強になります。非常に頼りになる本をいただきました』
などの感想が寄せられています。 ご希望の方は以下をご覧ください。

   http://koudai.cfs.chiba-u.ac.jp/support%20book.htm

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【編集後記】

  【1】の「課題研究徹底討論講座」では研究発表会の楽しさを久しぶりに満喫しました。1つの発表と討論に35分もかけられたことがよかったのは言うまでもありませんが、それぞれが討論に耐える豊かな内容を持っていたことが大きな理由です。生徒たちはみな目を輝かせ、謙虚さの中にも真理を探究している誇りと自信にあふれていました。

  ところで「世の中には客観的真理など存在せず、すべては社会の力関係によって決まる」と信じている人たちがけっこう多いのだそうです。政治や経済、社会なら「力関係」もまあ納得できますが、「科学とて例外なし」と言われると、これは問題です。

  自然や物と真っ向から向き合い、仮説を何十回と立てて、その都度徹底的に検証し、ついにたどりついた結論が、社会の力関係で、あるいは時代の要請によって覆ることなどない。これは自然や物の頑固さをいやというほど思い知らされた経験がなければ理解できないことなのでしょうか?だとすれば「課題研究」の教育的意義はますます測り知れません。

  緊張の中にも、笑いとユーモアあり、マウスやクマムシへの同情の涙?あり、の楽しい研究会でした。いやあ、科学ってホントにいいもんですね!!

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野曽原友行

千葉大学高大連携企画室
tel:043-290-3526
fax:043-290-3962
E−mail:t-nosohara@faculty.chiba-u.jp






 
   
 
 
 
 


 
 



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